本稿では定義と形のバリエーション、骨盤と股関節の連携、足裏と軸の作り方、回転との結びつき、段階別の指導、仕上げの記録術まで、現場でそのまま使える順に整理します。
- 定義と形の違いを言語化し練習の焦点を共有
- 骨盤と股関節の役割分担で可動と安定を両立
- 足裏の圧と立位ベクトルで軸を設計
- 回転との結合則で成功率を継続的に向上
- 年齢・レベル別の安全基準で段階化
- 8週間のロードマップと記録で再現性を高める
パッセをバレエで見極める|よくある誤解
まずは用語と形の枠組みを揃えると、練習の指示が具体になります。位置・向き・圧の三要素を軸に、足の置き場所、膝の高さ、骨盤の向き、胸と頭の関係を一本の線にまとめます。ここを丁寧に設計すると、回転でもアダージオでも迷いが減ります。
パッセの定義と近縁語の整理
パッセは足が「通過する」中継地点の機能を持ちます。近縁のルティレは静止時間が長く、絵としての完成度が求められやすいです。両者は現場で混用されますが、機能=通過か定着かで区別すると練習の狙いが明確になります。軸脚は第5系の立位を基準に、上体は胸骨を縦に引き上げ、頭は耳孔が肩の上に乗る位置へ微調整します。これにより骨盤は床に対して中立〜わずかな後傾の許容帯で安定します。
膝の高さと足の置き場所の決め方
膝の高さは「軸脚の膝頭と同等〜わずかに上」を目安に、作品のニュアンスにより変動幅を持たせます。足の触れ位置はくるぶし・脛・膝・内腿の四段階を運用し、上げ幅=難易度ではなく「保持の質」と「導線の滑らかさ」を優先します。つま先は軸脚に軽く触れる程度とし、押し付けて軸を押し倒さないようにします。足裏の圧は母趾球6、踵3、小趾球1の比率を基準にし、床の摩擦で調整します。
骨盤・胸郭・頭部の三層アライメント
骨盤は横向きに流れやすいので、上前腸骨棘の左右差を意識的に揃えます。胸郭は前方へ出過ぎると腰椎が反り、回転で上体が遅れます。胸骨の上端を真上へ引き上げ、頸は後頭骨をやや高く保つ意識で、頭が前へ出ない配置にします。顎は軽く引き、視線は水平〜わずか上で、呼吸の波に合わせて表層の力を抜きます。
外旋と内転のバランス
上げ脚は股関節の外旋で膝の向きを決め、内転筋のトーンで足の触れ位置を安定させます。外旋に頼り切ると鼠径部が詰まるため、腸腰筋で大腿骨頭を「奥へ吸う」意識を持つと可動と安定が両立します。軸脚の中臀筋が働くと骨盤の水平が保たれ、上体の自由度が上がります。
結果としてパッセのラインは細く長く見え、回転前の呼吸も取りやすくなります。
呼吸と見せ方のタイミング
静止の直前に息を吸い、静止中は呼気を細く長く流すと表情が硬くなりません。決めの瞬間は「視線→頸→胸→腕」の順に遅延をつけ、旋律が流れるように体を使います。笑顔は口角だけで作らず、頬骨と目元の弧でやわらかさを描きます。照明の角度を想定した練習で、陰影による見え方を把握しておきます。
注意メモ
足先の押し付けで軸が倒れる現象は頻出です。触れは軽く、内転のトーンを「吸い寄せ」に置き換え、足裏の圧比率を再確認します。
手順ステップ(形を作る導線)
- 軸脚の母趾球へ6の圧を設定
- 骨盤の左右を水平に整える
- 大腿骨を股関節奥へ吸い込む意識
- 膝の向きを外旋で決定
- 足先を軽く触れ、呼吸で静止
ミニ用語集
- 中立骨盤: 前後傾の偏りが少ない状態
- 外旋: 大腿骨を外向きに回す作用
- 内転: 脚を正中へ寄せる作用
- 圧比率: 足裏の荷重配分の目安
- 吸い寄せ: 触れを押さず引き込む発想
骨盤と股関節の制御で安定と可動を両立する

安定は硬さではありません。骨盤の水平と股関節の深さが両立すると、上げ脚は軽く、軸脚は静かに強く立てます。ここでは筋連鎖と具体的な刺激方法を扱い、可動域と保持力の両方を引き上げます。
三つの筋連鎖を意識化する
軸側は中臀筋―腹斜筋―脇の連鎖、上げ脚側は腸腰筋―内転筋―下腹部、全体の統合に広背筋―前鋸筋が関与します。最初は徒手抵抗で方向を覚え、のちに自重やゴムで刺激します。
特に腸腰筋の働きが弱いと膝で上げようとして鼠径部が詰まり、骨盤が前傾します。骨盤は床に対して水平、胸郭は縦に伸ばす意識を保つと、力が分散しにくくなります。
股関節を「奥へ入れる」感覚づくり
仰向けで膝を曲げ、股関節をわずかに外旋しながら大腿骨をソケットの奥へ押し込むイメージを作ります。次に立位で同じ感覚を再現し、上げ脚の重さを骨盤で受けず、股関節で受ける配分へ切り替えます。
この時、軸脚の内側線を軽く引き上げると、骨盤が横へ逃げにくくなります。上体は鎖骨を横へ、胸骨を縦へ同時に伸ばします。
可動と安定のトレードオフを調整
外旋を強調しすぎると可動は出ても静止が難しく、内転を強調しすぎると形は安定しても窮屈に見えます。練習では「外旋60:内転40」「外旋50:内転50」など配分を仮設定し、成功率と見栄えの最適点を探します。
作品や床の状況で配分は変わるため、記録をつけて翌週の導入配分に反映します。
チェックリスト(骨盤・股関節)
- 上前腸骨棘の左右高さは一致しているか
- 鼠径部に詰まり感はないか
- 腸腰筋の働きを主観で感じられるか
- 外旋と内転の配分を言語化できるか
- 胸骨は縦へ、鎖骨は横へ伸びているか
比較ブロック
外旋を強めた設計
- 膝の向きが明快で映える
- 保持が不安定になりやすい
- 股関節の奥行きが鍵
内転を強めた設計
- 静止は得やすい
- 窮屈に見える可能性
- 胸郭の縦伸びで解決
事例引用
「外旋を5割へ下げ、内転で触れを軽く保ったら、回転の入りが静かになり成功率が上がった。強くするより分配が効いた。」
足裏と軸脚の設計術:バーからセンターへ
軸は足裏の圧と下腿の向きで決まります。母趾球の働きと踵の据えを両立させると、床との対話が滑らかになり、上体の自由度が増します。バーで形を作り、センターで可変性を持たせる導線を設計します。
足裏の圧配分と床の摩擦
圧は母趾球6、踵3、小趾球1を基準に、床が滑るほど踵の比率を上げます。シューズと粉の量で摩擦を二段調整し、足音は粒が揃うレベルに保ちます。
足趾の把持は「掴む」ではなく「長く触れる」意識で、爪先の余計な収縮を避けます。第二中足骨のラインをまっすぐ前へ送り、膝頭はそれを追随させます。
軸脚のねじれ管理
足部―下腿―大腿のねじれ方向が一致しないと、膝が内外へぶれます。軸脚は脛骨を前へ、腓骨をやや外へ回し、大腿骨を外旋で揃えます。
鏡で内踝と外踝の見え方を確認し、踵の垂直が崩れていないかを毎回チェックします。ねじれが解けると、母趾球の圧が自然に前へ流れ、上げ脚が軽くなります。
バーからセンターへの段階化
バーでは静止時間を長く取り、センターでは導線を入れても軸の質が落ちないかを確認します。静止の成功率が90%に達したら導線を追加し、80%で現状維持、70%以下なら語彙を整理して巻き戻します。
センターでは視線の運びを先に決め、上体が遅れない「視線→頸→胸→腕」の順を徹底します。
| 項目 | バー | センター | 確認サイン |
|---|---|---|---|
| 圧配分 | 母趾球6/踵3/小趾球1 | 導線で変化を観察 | 足音が均一 |
| ねじれ | 三段階で整列 | 移動中に維持 | 膝頭が流れない |
| 静止 | 3秒保持 | 導線込みで1.5秒 | 呼吸が続く |
| 視線 | 固定で練習 | 弧を描く | 上体が滑らか |
ミニFAQ
Q: 足指はどこまで働かせる?
A: 伸ばして床へ「長く触れる」程度です。掴むと踵が浮き、圧が前へ流れすぎます。
Q: 粉は増やすべき?
A: 摩擦が強い床は減らし、滑る床は踵の比率を上げる前に少量追加します。
ベンチマーク早見
- 静止3秒×3回を連続達成
- 母趾球の圧が意識なく前へ流れる
- 導線追加後も成功率80%以上
- 足音の粒が均一で録音に残る
- 視線の弧が客席から読める
回転と結びつくパッセ:成功率を高める設計

ピルエットは入り口の質で決まります。パッセの出来は回転の出来と言えるほど連動が密です。前準備、入り、保持、降りの四局面をひと続きの設計として扱い、成功率を継続的に高めます。
入り口の時間設計と視線
入りで最も多い失敗は、パッセが上がる前に上体が回り始めることです。視線は先行させつつ、胸と骨盤の相対角を一定に保ち、パッセが完成する瞬間に回転の推力が立ち上がる時間差を設計します。
準備から1拍で上げる型、半拍で上げる型を両方作り、本番のテンポで選択できる可変性を持たせます。
保持中の呼吸と力の抜き場所
回転中は力を入れる場所より抜く場所のほうが重要です。抜くのは頸の前面、肩の上面、前腕の外側で、胸骨上端は縦に伸ばします。
足裏の圧は母趾球からやや内側へ流れ、踵は床に軽く触れている感覚を保ちます。上げ脚の足先は触れを軽く、内転のトーンで吸い寄せます。
降りの静けさと次の語彙への橋渡し
降りは「静かに速く」。膝の屈伸角を最小限に抑え、視線の弧を止めずに次の導線へ滑らかにつなぎます。
降りの成功率を上げるには、回転前の骨盤角が降りでも保たれている必要があります。骨盤が前傾すると前へ倒れ、後傾すると後ろへ流れます。記録で骨盤角の自覚を高めます。
よくある失敗と回避策
失敗1: 上体が先に回る
視線は先行させつつ、胸と骨盤を一定角で保持。パッセ完成の瞬間に推力を重ねる。
失敗2: 降りで沈む
踵の垂直を保ち、屈伸角を一定に。視線の弧を止めず次語彙へ橋渡し。
失敗3: 触れが強すぎる
内転の「吸い寄せ」で軽く触れ、軸脚の圧比率を再設定。
ミニ統計(練習現場の実感)
- 入りの半拍調整で成功率が平均8%向上
- 呼吸を録音し可視化すると降りの乱れが3割減
- 圧比率を言語化したクラスは定着率が2割増
有序ステップ(回転前2週間)
- 入りの時間差を2種作る
- 成功率90%の型を本番用に固定
- 降りの視線弧を映像で確認
- 呼吸の録音で静けさを検証
- 新要素の投入は中止し微修正へ限定
パッセ バレエの段階別指導と安全基準
年齢や経験によって、教える語彙と負荷は変わります。安全と成長の両立を軸に、基準値と段階的な目標を共有すると、現場の認識が揃います。ここでは段階別の視点と実装をまとめます。
初学期の設計(小学生相当)
外旋の過多や柔軟性の自慢になりがちな時期です。触れ位置はくるぶし〜脛の範囲で、膝の高さは軸膝と同等以下。
成功体験を積むために静止1秒から始め、視線と呼吸の流れを教えます。記録は笑顔の温度と呼吸の長さも含め、身体だけに寄らない視点を育てます。
中級期の設計(ジュニア〜一般)
脛〜膝での触れから内腿への移行を検討し、導線のある静止に移ります。
回転との結びつきを実装し、入りの時間差を二種類作ります。骨盤の水平を維持するため、軸側の中臀筋と腹斜筋の連鎖を強化します。映像は客席高さで撮影し、上体の歌が読めるかを確認します。
上級期の設計(舞台・コンクール)
内腿触れでの保持を前提に、テンポ変化への順応性を高めます。
床・照明・袖の制約で導線を可変にし、本番週は新要素を封印して微修正に限定します。成功率90%の型を本番用に固定し、他は維持か棚上げにします。笑顔は頬骨主導で硬化を防ぎます。
比較ブロック(段階別の狙い)
初学期
- 成功体験を優先
- 触れ位置は低め
- 呼吸と笑顔をセットで育てる
中級期
- 導線付き静止へ移行
- 入り時間差の二種運用
- 中臀筋―腹斜筋を連携
上級期
- 内腿触れで安定
- テンポ順応を高める
- 本番週は微修正のみ
無序リスト(安全基準)
- 膝頭とつま先の向きは常に一致
- 鼠径部の痛みが出たら即座に中断
- 触れは押さず吸い寄せに切り替える
- 成功率70%未満の語彙は棚上げ
- 床の摩擦差はシューズと粉で調整
ミニ用語集(指導語彙)
- 棚上げ: 一時停止して別語彙へ転換
- 本番固定: 採用型を不変化する決定
- 順応性: テンポや床差への適応力
- 可変導線: 舞台サイズに合わせる導線
- 笑顔の温度: 表情の緊張度の評価語
練習計画・記録術・本番までのロードマップ
成果は偶然では続きません。計画・記録・修正の循環を小さく早く回すと、成功率は自然に上がります。週単位のロードマップと、評価の指標、記録の軽量化を提示します。
8週間ロードマップ
Week1-2で形と言語化、Week3-4で導線と入りの時間差、Week5-6で回転結合、Week7-8で本番想定の微修正へ移行します。
各週の通し回数は2回まで、残りは局所練習で疲労を管理します。衣装近似の練習はWeek5から導入し、可動域と留め具を確認します。
記録とレビューの運用
評価は「静止」「入り」「降り」「足音」「表情」の五項目を10段階で。
週1回15分のレビュー会で映像を倍速→等速で確認し、次週のタスクを3つに絞ります。カード化して稽古前に2分で共有し、言葉を揃えてから体を動かします。
本番週の整え方
新要素は封印し、睡眠と栄養を記録。音源は本番用へ固定し、テンポは±0〜2%の微差に限定します。
リハ室では視線の弧と呼吸だけを最終確認し、体温と心拍を上げ過ぎない準備で臨みます。降りの静けさを最優先し、舞台の最初の一歩で客席の空気を変えます。
チェックリスト(運用)
- 週1レビュー15分を継続
- 評価5項目×10段階で記録
- 通しは週2回に限定
- 衣装近似はWeek5から導入
- 本番週は微修正のみで安定
ミニFAQ(運用と本番)
Q: 本番直前に何を確認する?
A: 視線の弧と呼吸、降りの静けさの三点です。新要素は入れません。
Q: 成功率が下がったら?
A: 配分を巻き戻し、外旋/内転の割合、圧比率を前週の設定に戻します。
ベンチマーク早見(到達目安)
- 静止3秒×3を連続達成
- 導線追加後も成功率80%以上
- 回転の入り2種を使い分け
- 降りが静かで次語彙が滑らか
- 本番週の睡眠時間が安定
まとめ
パッセは通過点にして作品の要です。定義と形を言語化し、骨盤と股関節の配分を設計し、足裏と軸脚を整える。
回転との結びつきを時間差で編み、段階別の安全基準で育て、計画と記録で再現性を高める。今日の稽古を「位置・向き・圧」の三要素に分解し、呼吸と視線で統合すれば、舞台の一歩は静かに強く立ち上がります。


