以下の簡潔なリストを起点に、本文の詳説へ進んでください。
- 分類で覚える(位置・方向・質・動作・順序)
- 頻出語から使う(プリエ/タンデュ/レレヴェ)
- 例文で文法化(命令形と名詞形の違い)
- 発音の手がかり(音節とアクセント)
- 混同ペアを仕分け(パッセ/ルティレなど)
バレエ用語の基本をやさしく理解|現場で使える
最初の壁は語の多さではなく、秩序のない暗記です。語を五つの箱—位置(ポジション)・方向(空間の向き)・質(動きの性格)・動作(何をするか)・順序(レッスンの並び)—に分けると記憶の住所が決まり、注意の言い換えにも対応しやすくなります。ここでは分類の骨組みと学習の導線を整え、後続の章で具体語へ展開します。
手順
- 語を五分類のどれかへ仮置きする
- 意味を一語で言い切る短義を作る
- 先生の口調で例文を一行作る
- 身体で1回だけ実演し、語と像を結ぶ
- 翌日に反転テスト(語→動き/動き→語)
FAQ
Q: フランス語が苦手でも大丈夫ですか?
A: 語感の目安を持てば十分です。綴りの全部でなく、音節とアクセントの位置を掴むと聴き取りが安定します。
Q: 何語から覚えるべきですか?
A: プリエ/タンデュ/レレヴェ/デガジェ/ロン・ドゥ・ジャンブの五つが導入に向きます。全ての振付に通底します。
Q: カタカナ表記は統一すべき?
A: 教室の表記に合わせつつ、原音の目安を横に置く二本立てが実用的です。
ミニ用語集
- ポジション
- 足/腕などの「置き方」。基準の静止形。
- アン・ドゥオール
- 外旋。股関節から外へ回す状態。
- デヴァン/デリエール
- 前/後ろ。方向を指す前置語。
- レレヴェ
- かかとを上げて立つ/上がる動作。
- エポールマン
- 肩付け。上半身の向きの作法。
- アン・ファス
- 正面向きの配置。
分類で迷わないための考え方
語は「静止の基準(置き方)」「空間の指さし(向き)」「身体の質感(軽く/鋭く)」「行為(何をするか)」「並べ方(順序)」へ落とし込みます。分類が決まれば辞書を引く速度が上がり、先生の指示がどの箱の更新かが分かります。
短義と例文のセット化
短義は十字以内で言い切ります。例文は先生の声色で再生できる一文にし、命令形と名詞形の使い分けを可視化します。例:「デガジェで床を払って」「ロン・ドゥ・ジャンブは外回しで」。
耳と目と身体の同期
耳で語を受け取り、目で空間の線を見取り、身体で最短の軌道へ移す同期を練ります。語→像→行為のレイテンシを縮めるほど、注意に即応できます。
忘却曲線を味方にする復習
翌日の反転テストで記憶の固定率が跳ね上がります。辞書を閉じて「動き→語」「語→動き」を交互に三往復するだけで、語彙の定着が変わります。
注意の翻訳術
「高く」などの抽象語は、「どの箱を何に変えるか」へ翻訳します。例:「もっと高く」→「腕のポジションをアン・オーへ」「レレヴェの高さを一段」。
足と腕のポジションを整える:置き方の基準と色分け

置き方の精度は全ての動作の母体です。足の第一〜第五ポジション、腕のアン・バー/アン・ナヴァン/アン・オー、さらにクロワゼ/エファセ/エカルテの方向を同列に扱うと、空間の線が揃います。ここでは形の基準と体感の言語化を進めます。
チェックリスト
- 第一:かかと合わせ/母趾球は軽く開く
- 第二:肩幅の延長/膝は膨らませない
- 第三:練習用/優先は第一と第五
- 第四:前後の幅/骨盤は正面
- 第五:かかとに母趾球/膝は前に伸ばす
- 腕アン・バー:胸前/前腕は楕円
- 腕アン・ナヴァン:肘は浮かせず掌は柔らかく
- 腕アン・オー:肩甲帯は下げたまま
比較
外旋の作り方
- 股関節から回す→膝/足首の負担が減る
- つま先だけ外→短期は楽だが故障リスク
腕の楕円の描き方
- 肘の高さを静かに維持→呼吸が入る
- 手首だけ上げる→肩が詰まりやすい
足ポジションの言語化
第一は「ゼロ点」、第五は「密度の最大」。第二は幅の基準、第四は移動の準備。第三は学習用の中継点で、舞台では第一/第五の往復で十分に戦えます。
腕の円弧と胸郭
腕は胸郭の前に「空間の器」を作ります。指先は集めず散らさず、手のひらは風を受ける角度。肩甲骨は下げ、鎖骨を水平に保ちます。
顔とエポールマン
顔の向きは腕と足の線を束ねます。首だけをねじるのではなく、胸骨の小さな回旋で視線を導くと自然な陰影が生まれます。
頻出の動作動詞を理解する:プリエ/タンデュ/デガジェほか
動詞は身体を動かすトリガーです。プリエは曲げ、タンデュは伸ばして床をなぞり、デガジェは床から離す払う動き、ロン・ドゥ・ジャンブは脚で円を描き、レレヴェは踵を上げる動作です。ここでは頻出語を機能で捉え、例示と数値目安で輪郭を固めます。
よくある失敗と回避策
プリエで膝が内へ入る→母趾球と小趾球を均等に踏む。タンデュで指だけ伸びる→脚全体を遠くへ運ぶ想像を足先へ伝える。デガジェで膝が緩む→出発の第一で膝を伸ばし切ってから払う。
ロン・ドゥ・ジャンブで腰が揺れる→骨盤は静止、脚だけが円を描く。レレヴェで上体が沈む→上へ伸ばす意識を先に作り、最後に踵を上げる。
ベンチマーク早見
- プリエ:膝頭はつま先の向きに一致
- タンデュ:足先は床から離さず遠くへ
- デガジェ:床から数センチ/刃で払う感覚
- ロン・ドゥ・ジャンブ:外回し/内回しを分離
- レレヴェ:甲は長く/くるぶしは前に滑らす
「床を静かに使えば使うほど、音楽が身体へ入ってくる」。動詞は技術ではなく、床と会話するための言葉です。
プリエの機能
衝撃吸収と準備。上下動のバネを作り、跳躍や回転の前後に配置されます。膝は左右へ割らず、前へ曲げる感覚で深度を作ります。
タンデュ/デガジェの違い
タンデュは床に沿う線、デガジェは床から離す刃。どちらも脚は長く、甲は前へ伸ばし、骨盤は安定させます。速度が上がっても線の清潔感を保ちます。
ロン・ドゥ・ジャンブの円
股関節の回旋で描く円。胴は揺らさず、脚だけが円周をなぞります。外回し/内回しで筋肉の順列が変わることを体感します。
発音とアクセントの目安:聴き取りと書き取りをつなぐ

語の綴りと音は一対一ではありません。音節とアクセントの位置を掌握すると、先生の指示を聴き逃しにくくなります。ここでは耳の手がかりを数値で可視化し、英語読みの揺れにも幅を持たせます。色で音節、アクセントを意識し、身体への導線を短くします。
ミニ統計
- plié:音節2/末尾[e]は明るい母音/アクセントは後半
- tendu:音節2/鼻母音enを近似「タン」/語尾[u]は丸く
- dégagé:音節3/語末[é]が響く/中音節「ガ」が核
- rond de jambe:音節4/鼻母音×2/「ロン・ドゥ・ジャンブ」に近似
- relevé:音節3/「ル・ル・ヴェ」に近似/前二音節を軽く
FAQ
Q: カタカナはどこまで厳密?
A: 授業で伝わる精度があれば十分です。鼻母音は鼻に抜くつもりで曖昧母音を作り、子音の固さを避けます。
Q: 英語読みとフランス語読みの差は?
A: 地域差があります。綴りを見せて確認すれば誤解は減ります。
Q: 先生によって発音が違う時は?
A: その場の規範に合わせつつ、意味が一致しているかを例文で照合します。
チェックリスト
- 鼻母音は「ン」を足さず空気を抜く
- 語末の子音は鳴らさない場合が多い
- アクセントは語末寄りを基本に幅を持つ
- 綴りをメモし検索で確認できる形にする
音節を掴む練習
手拍子で音節を割り、語尾を少し長く保つだけで聴き取りの解像度が上がります。発音記号を完璧にせず、身体への合図に必要な粗さだけを残します。
英語圏/仏語圏の揺れに備える
「テンデュー/タンデュ」「ルルヴェ/レレヴェ」などの揺れは共存します。指示の前後文脈で意味を確かめ、音ではなく意味で同定します。
書き取りの工夫
耳で得た音をカタカナと綴りの二段で記録します。メモの左に音、右に綴りを書くと、後で検索や辞書確認が容易になります。
レッスンの流れで覚える:バーからレヴェランスまで
語を単体で覚えるより、流れに置く方が定着します。バーで基礎の線を作り、センターで空間へ広げ、アダージオで重心を養い、アレグロで弾性を磨き、最後はレヴェランスで感謝を形にします。各段の語は機能で結び、順序の意味を身体へ刻みます。
手順
- バー:プリエ→タンデュ→デガジェ→ロン・ドゥ・ジャンブ→フラッペ→フォンデュ→グラン・バットマン
- センター:ポールドブラ→アダージオ→タンジュ系→ピルエット→小跳躍
- アレグロ:プティ→グラン→アンシャヌマンの構築
- 終結:ストレッチ→レヴェランス
ミニ用語集
- アダージオ
- ゆっくり重心と呼吸を扱う段。
- アレグロ
- 速い跳躍や素早い足さばきの段。
- アンシャヌマン
- 振りの連続体/組み合わせ。
- レヴェランス
- 礼。終結の感謝の所作。
- ポールドブラ
- 腕の運び。線の文法。
バーの意味づけ
バーは「線の工房」。床と身体の関係を清潔にし、センターで崩れない基準を作ります。速度を上げる前に、静かな長さを担保します。
センターでの展開
バーの線を空間に置き換え、視線と移動で音楽を面に広げます。ポールドブラの移調が成功すると、舞台の奥行きが生まれます。
終わり方の文化
レヴェランスは技術の披露ではなく、共に時間を作った相手との礼節です。息を落ち着け、音に身を預け、空間を静かに閉じます。
混同しやすい言葉の見分け方:意味と使い所を整理する
似た響きや近い機能の語は、基準線でほどくと混乱が消えます。ここでは代表的な混同ペアを比較し、具体的な使い所と観察ポイントを列挙します。基準を共有すれば、先生の語彙が変わっても身体の反応は一定に保てます。
比較
パッセ/ルティレ
- パッセ:通過/移動の途中の位置
- ルティレ:引き上げ/位置としてキープ
リレヴェ/エレヴェ
- リレヴェ:曲げてから上がる
- エレヴェ:まっすぐ上がる(学校による)
シャッセ/グリッサード
- シャッセ:追いかける/空間を詰める
- グリッサード:すべる/重心移送の準備
よくある失敗と回避策
ルティレで膝が開きすぎる→太ももの前ではなく股関節の外旋で作る。リレヴェで上体が沈む→先に上へ伸ばし、最後に踵を上げる。グリッサードで重心が浮く→足と上体を同時に進めず、足→骨盤→胸の順に運ぶ。
アン・ドゥダン/アン・ドゥオールの回転方向を逆にする→手の合図(利き手側)と視線の先を一致させ、出発前に一語で口に出す。
ベンチマーク早見
- パッセ:通過で止めない/音の裏で静かに越える
- ルティレ:甲は長く/膝は前に出さない
- アン・ドゥダン:内回し/支持脚の外旋を保つ
- アン・ドゥオール:外回し/上体の反応を遅らせない
- シソンヌ/アッサンブレ:着地の足の数で判別
通過と保持の言語化
同じ形でも、目的が「通過」なら線の清潔、「保持」なら重心の静けさが評価されます。語の目的を先に決めると、動きの質が自動的に整います。
回転方向の固定
出発前に「内」「外」を口に出し、視線の軌道を指でなぞります。耳と目と手の三点で確認すると、方向の取り違えが減ります。
観客としての見分け
舞台で混同しやすい動きは、着地の足の数、上体の回し方、腕の収まりで区別できます。用語を知ると、鑑賞の会話が具体化します。
まとめ
語は動きを短く束ねるタグです。分類で住所を与え、短義と例文で文法化し、耳と身体を同期させれば、指示が意味へ、意味が行為へ直結します。ポジションは形の基準、動作動詞は機能のスイッチ、発音の目安は聴き取りの土台。混同ペアは目的でほどき、流れの中で再現します。
今日覚えた少数の語で十分です。明日の反転テストで結び直し、レッスンの現場で一語を一動作へ変換してください。語が身体に宿るほど、音楽が濃く届きます。


