アントルラセは回転と跳躍が交差する華やかな見せ場で、わずかな準備と重心操作のズレが成功率を左右します。写真では流れる軌跡が美しく、動画では助走やプリエの質が明確に表れます。
本稿では意味と動きの構造を分かりやすくほどき、骨盤や上体の連動、音楽との合わせ方、練習ルート、作品での応用まで一気通貫で整理します。最後に自己診断と改善計画も添えるので、レッスン直後から使える実践知として活用してください。
- 意味と名称の整理で混乱を解消
- 骨盤と上体を連動させる合図を設定
- 助走とプリエの長さを一定に管理
- 空中での交差より準備の静けさを重視
- 着地は足裏から背中へと吸収する
アントルラセは跳躍で魅せる|実践ガイド
導入:用語の理解が曖昧だと指示も自己評価もブレます。ここでは語源・語感・運動構造を並べ、何を以て成立とするのかを定義します。定義が明快になるほど、練習の優先順位が迷いません。
言葉の成り立ちと現場の使い分け
アントルラセはフランス語由来で「交差させて絡み合わせる」の意を持ちます。現場では「アントルラッセ」と促音を含む表記も通り、学校や指導者で発音差があります。どちらも同義と理解し、記号的な違いに囚われず動きの骨格で語彙を統一すると、指導と学習の齟齬が減ります。
動きの骨格―準備・発射・空中・着地
構造は準備のプリエ、発射の押し出し、空中での交差と回旋、着地の吸収に分かれます。視線と上体の先行で回旋が誘発され、骨盤は遅れて追随します。空中で脚を「作る」より、発射前に上体と腕で回旋の地図を描く方が再現性が上がります。
どの方向に交差が起きるのか
典型は前方向への入りから斜め後方に抜ける軌道で、視線は出発点から回転の出口へ流れます。脚の交差は空中で一瞬作られるが、客席に見えるのは「弧」の美しさです。弧を大きく見せるには、出発角と肩の開きが鍵になります。
似て非なるステップとの境界線
ソトやウチのサンブルザンやトンベパドブレからの回転跳躍など、似た見た目の語彙は多くあります。判断の指標は「回旋の主因がどこにあるか」です。腕先が作る見かけの回転ではなく、背中と骨盤の遅れが生む回旋なら、アントルラセの文法に入ります。
成立条件―何ができれば合格か
助走の長さが一定で、プリエの深さと速度が毎回揃い、回旋の出口で胸が客席に戻る。さらに着地の吸収が静かで、次のステップに無理なく接続できる。これらが揃えば、脚の交差の角度が小さくても成立と見なせます。大切なのは「流れのなかの美」です。
注意:名称の表記差は本質ではありません。クラスで使う言い回しを揃え、成立条件を言語化してから練習記録を付けましょう。
手順の見取り図
- 助走を一定化し、プリエの深さを決める。
- 視線と上体で回旋の出口を先取りする。
- 腕の環で背中を包み、骨盤を遅れて連動。
- 空中で交差を作り、弧を崩さず保持。
- 足裏から着地し、背中で衝撃を吸収。
- 語彙:回旋の地図
- 視線と胸で回転の出口を先取りする設計。
- 語彙:遅れの美
- 骨盤がわずかに遅れて追随し弧を大きく見せる。
- 語彙:吸収の静けさ
- 着地で音を立てず次の動きへ滑らかに接続。
意味を定義し、成立条件を言語化できれば、練習は流れの精度に集中できます。名称より構造、形より時間の設計が要です。
骨盤と上体を繋ぐ体づかいで成功率を上げる

導入:失敗の多くは脚ではなく胴体に原因があります。ここでは骨盤・背中・首肩の三点連結を明快にして、脚が勝手に動き出す前に胴の設計で勝つ方法を分解します。
骨盤の遅れが弧を作る
骨盤は先に回すと弧が小さくなります。胸で先行し、骨盤が半拍遅れて付いてくると、空中での交差が作りやすくなります。遅れすぎると着地が遅延するため、胸先行:骨盤追随=6:4の比率をイメージし、胴のねじりを最小限に保つと安定します。
背中と腕の環で回旋を誘導
腕で回そうとすると肩が上がり首が短く見えます。肩甲骨外側の広がりで空間を包み、腕は背中の延長として扱います。指先の方向は出口の角度に合わせ、手首は硬直させず弾力を残すと、視線の移動と呼吸が整います。
首の位置と呼吸の役割
顎を引き過ぎると胸が閉じて回旋の出口が見えません。首は長く保ち、吸気で背中を広げてから発射します。吐く呼吸は空中の保持に使い、着地の直前で再吸気を入れると衝撃吸収が穏やかになります。
比較
成功例:胸先行で骨盤が半拍遅れ、着地が静か。首が長く見え、弧が大きい。
失敗例:骨盤先行で弧が潰れ、腕で回そうとして肩が上がる。着地が重く次に繋がらない。
チェックリスト
- 胸先行はできているか
- 骨盤は半拍遅れているか
- 肩は上がらず首が長いか
- 吐く呼吸で保持できたか
- 着地の音は小さいか
脚の角度より胴体の時間設計が先です。胸先行と骨盤追随、首の長さと呼吸の管理が、見た目と安全性の両方を底上げします。
音楽とタイミングでアントルラセを整える
導入:音に遅れると弧が小さく、急げば崩れます。ここでは助走の長さ・プリエの速度・発射の拍を固定し、毎回同じ時間軸で踊る方法を具体化します。
助走の距離は一定にする
距離が伸び縮みすると、プリエの深さも変動します。床に目印を仮想設定し、三歩または二歩で入る定型を決めましょう。距離を一定化すると、視線の先取りと腕の環が毎回同じタイミングで立ち上がり、空中の保持が揃います。
プリエの速度と深さの関係
深く速いプリエは爆発力を生みますが、胸が沈むと出口を見失います。深さ7割・速度は八分のイメージで、足裏の圧を床に流し込む感覚を育てます。音楽が速いときほど、プリエは「速く浅く」ではなく「速く滑らかに」です。
発射の拍と視線の先取り
発射は表の拍に置き、視線は半拍先に送ります。視線が遅れると胴体が迷い、空中での交差が曖昧になります。顔だけ先に回さず、胸郭ごと方向を変えると回旋の質が上がります。
ミニFAQ
Q. 速い音で間に合わない。
A. 助走を短くせず、プリエの速度を滑らかにし、視線を半拍先に置きます。
Q. 距離が毎回変わる。
A. 仮想マーカーを決め、二歩または三歩の定型に固定します。
Q. 着地が重い。
A. 発射直前の吸気と、着地直前の再吸気で背中に余白を作ります。
時間軸の固定は距離とプリエで作れます。視線の半拍先行と呼吸の配置が揃えば、音楽が変わっても弧は崩れません。
段階的ドリルで身につける練習ルート

導入:形を一気に求めると癖が固まりやすい。ここでは基礎→連結→跳躍→連続の四段でドリルを組み、記録の付け方まで提案します。少ない時間でも再現性が上がります。
基礎フェーズ:床での回旋づくり
バーから始め、ルルヴェで胸先行を確認します。腕の環を広げ、骨盤の遅れを引き出す小さなねじりを入れます。目標は「首が長く見える配置の癖づけ」。床での成功率を上げるほど、跳躍での弧は安定します。
連結フェーズ:助走とプリエの設計
センターで二歩・三歩の定型を試し、プリエの深さを7割で固定。視線の半拍先行を録画で点検します。腕で回さず背中で包む意識を保ち、発射の直前で吸気、空中で吐くを習慣にします。
跳躍フェーズ:弧と交差の両立
空中での交差は最小限の筋力で作り、弧を崩さないことを優先します。着地直前に再吸気を入れ、足裏から静かに降りる。連続で二回入れる練習は最後に回し、単発の質で安定を先に得ます。
練習ステップ
- バーで胸先行と骨盤遅れを確認。
- 二歩・三歩の助走を固定。
- プリエ7割+視線半拍先行を徹底。
- 単発の弧と交差を撮影で点検。
- 着地の静けさを採点化。
- 連続二回で疲労下の再現性を確認。
- 週ごとに比較し癖を更新。
事例:週3回・各15分の短時間練習でも、距離とプリエを固定しただけで安定度が大幅に向上。録画で視線の遅れを修正し、着地音が半分に減った。
段階化は最短距離です。床→助走→跳躍の順に質を積み上げ、記録と採点で客観性を持てば、少ない時間でも伸びます。
作品で活かす文脈と見せ方の調整
導入:同じアントルラセでも作品で役割が変わります。ここでは王道古典・華やぎ系・抒情系の三分類で、弧・速度・視線の置き方を調整します。場面に沿えば説得力が上がります。
王道古典での均整と節度
眠れる森や白鳥などでは、弧の美しさと着地の静けさが最優先。視線は客席奥へ長く投げ、胸の開きで高貴さを作ります。交差を誇張するより、出口での静止が気品を生みます。
華やぎ系での推進力と遊び心
ドン・キホーテや海賊では速度を上げ、弧を大きく見せます。視線は素早く回し、表情に遊びを加えます。着地後にすぐ次へ入る設計で、舞台の熱を切らないことが観客の興奮につながります。
抒情系での間合いと陰影
ロミオやマノンでは呼吸の陰影が鍵です。視線を遅らせ気味に置き、弧より物語の流れを優先。着地後に一拍の余白を残すと、感情の余韻が観客に届きます。
ベンチマーク
- 古典:着地音を最小化する
- 華やぎ:二回連続の再現性
- 抒情:出口での呼吸の余白
- 共通:視線の半拍先行
- 共通:プリエの深さ7割
注意:舞台サイズが小さいと弧の大きさが飽和します。距離を詰めて質を保ち、誇張で崩さないことを優先してください。
文脈に合わせて弧・速度・視線を調整すれば、同じ技でも印象は洗練します。場面が教える要件を先に聞き取りましょう。
よくある失敗と安全対策・上達計画
導入:失敗はパターン化できます。ここでは原因の切り分け・安全の優先・計画の見直しをテンプレ化し、怪我を避けつつ上達カーブを持続させる方法を提示します。
典型的なエラーと修正の糸口
骨盤先行で弧が潰れる、腕で回して肩が上がる、視線が遅れて出口を見失う。いずれも胴体の時間設計を整えれば改善します。胸先行を録画で可視化し、プリエの速度を一定化するだけで成功率は上がります。
安全対策―疲労と床の条件管理
疲労時は着地が重くなり、足首や腰への負担が増します。練習の最後に連続二回を置く場合は、回数を限定し、床の滑りを適正化します。シューズの状態、 rosin の量、湿度をメモに残し、条件に応じて助走距離を微調整しましょう。
計画の立て方と評価の更新
週単位でテーマを一つに絞り、録画と採点で可視化します。点数は「距離・プリエ・視線・着地」の四項目で10点満点。60点未満は前段に戻り、80点で作品文脈の練習へ進むと無理なく伸びます。
失敗と回避策
骨盤先行:胸先行6:4の比率に戻す。
肩の緊張:背中で腕を包み、手首に弾力。
着地の重さ:再吸気で背中に余白を作る。
コラム:上達は「良い時の再現性」で測ると折れにくいです。最善の一本ではなく、平均の質が上がる設計を目指すと、舞台でも緊張に耐えられます。
失敗の型を知り、条件を管理し、評価を更新する。安全を守る設計こそ、長く踊るための最大の近道です。
まとめ
アントルラセは名称の違いよりも構造の理解が要です。意味を定義し、胸先行と骨盤追随の時間設計、助走とプリエの一定化、視線の半拍先行と呼吸の配置で、弧の大きさと着地の静けさが整います。
段階的ドリルで基礎から積み上げ、作品文脈に合わせて見せ方を調整すれば、技は単なる見せ場から物語を運ぶ手段に変わります。録画と採点で再現性を育て、安全第一で継続しましょう。


